私が初めて声優の勉強をしたのは、NHKの養成所みたいなトコだったのですが、そのツテでガヤのアルバイトに借り出されたことがありました。

今はどうなってるのか知らないのですが、当時はさまざまなラジオドラマが作られていたので、各ドラマのガヤシーンを録るため、ものすごい広いスタジオに役者を一挙に集めます。2時間近くかけて、ガヤを録りまくるというアルバイト。

ハンバーガーしか売ったことがなかった私にとって、声の収録すら経験がない時点で、とても緊張する瞬間でした。

……と、いうのも「え?コレもガヤなの?完全にセリフだよね」みたいなシーンもあったからです。

それも、役者が決まってないので「誰か若い奴やれ」と言われて、いきなりマイク前に引っ張り出された。あれは一体何に使われたんだろう。青春アドベンチャーとかかな。

エキストラとはいえ、このおじさんたち、絶対大ベテランだわ・・・という方々も何人かいました。2,3人でこっそり忍び込むみたいなシーンは完全にアドリブ。ガヤの台本というのはあってないようなものだということも、この時知りました。

ミキサーには多くのスタッフが入っていて、その中に1人、民間のアニメなどを担当している女性のディレクターさんがいました。今は、女性のディレクターさんは珍しくもなんともないですが、当時はそんなに多くなかったと思います。

この人がシーンによっては、どうやってやるかを説明していて「わ~あっちだ~逃げろ~いけいけ~」みたいな大掛かりなガヤをハイテンションで実演しながら私達に指示していたので、役者さんたちに「おまえがこっち来てやれー!」と、からかわれていました。

このディレクターさんの「これこれこうで、こぉ~んな風にやるんです!!」という説明は本当に的確でわかりやすくて、今でも忘れられません。

だんだん、夜も更けてくると、年輩の女性たちはいすに座って「ほらほら、あなたたち、若いんだからいってらっしゃいよ」と私達をマイク前に送り、おほほほ・・・と、笑いながらくつろぎ出していました。

民間のガヤだったら、こんなことはないんでしょうが、ココがNHKっぽいっていうか、なんだか優雅だなぁ、と感じました。

私はこの何年後かに、何を間違ったか公務員になるのですが、そのどこかがビミョーにおかしいんだけど、何とも説明しがたい雰囲気というのはこの時のNHKの雰囲気に通ずるものがありました。

さて、このガヤガヤする仕事、新人の声優にとっては、現場にも行けるし、ガヤとはいえ、マイク前で声を出すことができる貴重な経験です。

でも、なんとなくこの先、一番最初に少なくなってくる作業のような気がします。だから、何十年後かには「昔はねぇ、現場でみんなしてガヤガヤしていたのよぉ」と話したら、孫とかに「ふーん、ヘンなの」と言われるのかもしれません。