「コネ」と、聞いたときみなさんはどういう想像をされるでしょうか。

この「コネ」に対して抱く感情ほど、人をゆっさゆっさと揺り続ける代物は、そうはありません。それほど、この世界はコネまみれ、とも言えるでしょう。「私はコネなんて使ったことがない!」という清廉御潔白な方々も元をたどると、発端はコネだった。みたいなことがあるんではないか、と予想されます。

私自身はコネで就職したこともありますし、なんと後々、そのコネ(の大人物様)がとんでもない威力を発揮して、窮地に陥った自分を救出してくれたことすらありました。そんな経験もあって、コネ自体にあまりマイナスなイメージはありませんが、ナレーターになってからはあまり積極的にコネを使おう、と思ったことはありません。実はあまりコネらしきものもなかった、というのがホントのところではありますが・・・

しかし以前、面白い現場に居合わせたことがあります。

自分がコネの蔓の先についたおまけだったと発覚したのです。

その時の自分の感情というのは、それはそれは複雑でした。コネ自体に決してイヤ~なイメージがあったワケではないが、コネと知っていて現場へ行くのと、コネと知らずに行くのとでは、当然何かが違ってきますよね。

そのお仕事のオーディションは、私が通っていたスクールが連絡してくれたものでした。まぁ、ですから最初の時点で、先生方のコネと言えばコネなのですが、ナレーターのスクールではよくあることです。先生方が引き受ける高いレベルのお仕事ではない場合、大抵は弟子たちにふられます。

とはいえ、いちおうスクール内では事務所と同じように候補出しもしますし、誰か1人がその役に選ばれるワケですから、完全にコネという感じはありませんでした。・・・現場へ着くまでは。

スタジオに入ったとき、すでにメインのナレーターの女性と、ボイスオーバーの男性が原稿を読んでいました。そのとき、男性はともかく、女性の存在が気になりました。「この人も先生の生徒なのかな?」と。

ものすごいたてこんでいる現場だったため、私の原稿はずっと来ませんでした。・・・と、いっても出番の尺はほんの数分。その間は出ずっぱりなのですが、私は元々、声優の勉強をしてきたので、セリフは初見でもけっこう何とかなったりします。幸い、原語は英語。これが韓国語とかだったりしたら、完全にズレまくった可能性の高い収録でしたが、英語は少し聴き取れるので、「あ、今ズレた。」という瞬間はテストですぐわかりました。

しかも本番はズレたにも関わらず、確認するとなぜか尺がおさまっている、という珍妙な結果に。おかげで、私自身はほとんど録り直しがありませんでした。ボイスオーバーの男性は私の何倍も出番が長かったので、どエライ大変そうでしたが。

この番組はある有名人の方がメインで解説されたのですが、その方とナレーターさんがやけに親しそうで、以前から気に入って使っているのかな?とアタマは?マークだらけ。私は自分の収録よりも現場の状況の不思議さに、家政婦はミタ状態でした。

その有名人は「大切なナレーターさんなんだから無理させないでよ」みたいな感じのことをディレクターさんにおっしゃっていました。え、まさか愛人?そんなわかりやすいオチってあるかなぁ・・・などと、目の前で繰り広げられている光景に興味津々。

この時のディレクターさんは、スゴイ人でした。どうスゴイのかというと、バランスがとれているんです。いろんな意味で。こういうエライ有名人とかが出入りし、しかもビミョーにコネが関わっているという複雑な現場にも関わらず、もうお見事!としか言いようがない対応で、現場をさばいていました。後から考えてみれば、私がコネの蔓のおまけでやってきたヒトにも関わらず、それをチラとも感じさせない真摯な対応でした。

今まで、いろんなスゴすぎる人々に会いまくってきましたが、忘れられない人の1人です。本当はこの方とはまたお仕事をしてみたいのですが、ご縁はなさそうだなぁ。なんたって、状況がアレでは。

もう1人、忘れられないのは翻訳の女の子でした。こういうスタジオへ来たのは初めてらしく、とてもまじめに私のセリフの修正につきあってくれました。彼女のおかげで、このワケのわからない現場でも、かなり冷静に収録できた覚えがあります。今でも会えたら感謝したい。

話はそれましたが、問題はココからです。私と男性のボイスオーバーの部分は先に終わり、帰ってもよいことになりましたが、私はこのおかしな現場から目が離せませんでした。それで、何かヒントの一端でもつかめないか、とナレーションの収録の最初の部分を見学することにしました。

始まってから「・・・ん?なんかヘンだなぁ」と感じました。

私の優秀な師匠の弟子だけあって、ナレーション自体は上手でしたが、語尾が時々からみます。ガラつく、というのか。それはディレクターさんが気になったようで、何度か録り直しをしていました。地声に若干難があるというのか・・・、収録に慣れているナレーターさんの読みではないような気がするのも疑問でした。

そんなこんなで、余計ワケがわからなくなり、私自身はスタジオから退出。

スタジオの外ではスタッフの方が時計を見ながら、延長しようかどうしようか迷われている様子でした。そうそう、この方もほんのちょっと話をしただけなんですけど、印象的な方でした。とにかく、この会社に関わっている方々はみんな気さくで驚きます。

事の顛末は次週のレッスンで、先生のお口から発覚!

そのナレーターの女性は、元々その有名人の秘書?事務方さんだったというのです。ふぅ~ひと安心(?)私のアタマの中では完全に愛人でした。

しかも、その有名人は先生の同級生だというのです。そのことについては先生自体も当時、かなり驚いたそうです。つまり同級生の秘書さんが、偶然か故意かは知りませんが、ナレーターを目指しに先生のところへ来た。ですから、今回の仕事は彼女のツテなのです。

・・・私は彼女のコネの蔓の先についたちっちゃなおまけ、ということです。

この話を聞いて、心の中で大笑いしてしまいました。

後にも先にもこんなに愉快で、不思議で、そして思いやりのある人々に会えた現場はないでしょう。コネも悪くないな、と心底思えた現場でした。

もう一度あったら、また書きますね!(・・・懲りないな)