宅録を始めてから、ずっしりとこたえたことは、スキル向上のゴールが見えないことです。

いわゆるアーティストに近い業界の方は特にそうだと思うんですけど、クオリティを追求していたら、おそらく人生はあっという間に終わってしまうでしょう。そのぐらい次から次へと、課題が浮かび上がる。

はじめのうちは、リップノイズに気が付かないんです。

ミキサーの方からすれば「え、耳が良くないの?」と、思われそうですが、本当にわからないんです。今となっては不思議なんですけど、私の場合、2,3年たってから「ん?なんだこのヘンな音は。」と徐々に気が付くようになりました。

リップノイズは編集でとるのが大変なので、やはり普段からリップノイズを極力出さないようなしゃべりをしなければなりません。特に宅録をしない人はこれをマスターしておくと、スタジオの方に喜ばれると思います。

よく、水を飲めばいい、というんですが、水を飲むと逆に「今、水が舌についてますね~」みたいな音が出ます。自分でやってみるとよくわかりますよね。ヘンな水音?が鳴る。ですから、渇いている時に音が鳴らないようなコツが必要なんですけど、これをやっていると、読み間違える。だから、やりすぎないような工夫も必要で。

あと、サ行が強すぎると気になりますよね。これも自分では気が付かず、ディレクターの方からご指摘を受けました。

・・・とはいっても、人間なので多少はしかたないですよね。やっぱり編集の方が少しでもラクになるように、とは常日頃思います。サ行は編集で弱めることができますが、あまりやりすぎると音質が変わってしまうので、やはり録る時点で調整するような話し方が必要です。

ま、ここまではスタジオ派遣のナレーターさんにも共通の課題ですが、ここからは、宅録のデメリットらしきことを、正直に書いておこうと思います。やはり、宅録のデメリットは避けがたい現象(?)です。

まず、お客様にとっての一番の問題は、音質ですよね。コレはスタジオで録るのとは比べ物にならないです。ミキサーさんがレベルを調整してくれますから、ちまっとした音声にはならない。スタジオの壁は環境音も遮断してくれる。

それに、私達ナレーターものびのびと文章を読むことができます。

宅録のナレーターが家の中で録音している姿というのは、どうかしている。誰かが知らずに目撃したら、まず後ずさるに違いない。

まぁ、コレは人によるんですけども、クローゼットに入って「ブツブツ・・・」言っている場合は、気は確かか?状態にしか見えないですし、人によってはベッドで布団をかぶっていると聞きます。私の場合は、同業者さんのアドバイスで、吸音シートとやらを購入しましたが、それでも自分自身も頭からバスタオルをかぶったりしますから、スゴイいでたちだとは思います。

・・・で、こうやって残響音を必死でカットしても、隣りの家の犬が吠えたり、救急車がやってきたりすると、中断、録り直しです。

そんなこんなで、録り終わった後、今度は怒涛のノイズカットが残っています。人によっては、マスタリングしている方もいるでしょう。そのままじゃ、音も小さいし。

これも見よう見まねでやっていたツケが来たのか、とうとう今年、音質について外人からかなり厳しいご指摘を受けました。

「だぁれもあなたのデータは受け取らない」・・・さぁすが外人!婉曲という言葉は英語には存在しないんだろう、きっと。

私がこのサイトを開設して、1番最初の問い合わせが外人さんでした。英語はカタコトだし・・・メール返信するのも一苦労。

英語イマイチの私でも、音質がどうにもヒドイ。・・・と、言っていることだけはわかりました。

一番の問題はやはりノイズでした。コンデンサーマイクは全ての環境音をもれなく拾ってくれるので、ノイズカットが大変なんです。

今まで自分のデータを受け取ってくれた日本人の方々は、かすかなノイズ、ブレス間の途切れ加減など、大目に見てくれていたんでしょう。このことがあって、以前よりも音質に関しては注意深くなりました。

でも、そんなヒドイのに、どうして何とかなっていたのか、気になりますよね。

たぶんひとつには、あきらかなノイズがあっても、最終的にはBGMがつくので、ほとんどわかりません。ブレスノイズなども気になる方もいれば、人間だもの、あってもいい、っていうさまざまなポリシーはあります。

私のデータは素ナレのまま使われたことはないですが、素ナレだったら、注意が入ったと思います。

・・・こんなことを書くと「もう宅録はムリそうだなぁ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。私自身「いつやめよう」と何度思ったことか。特に宅録はまだ日本では市民権がなく、邪道だと言って、とりあわない方もいるはずです。そんなことより、しゃべり方をどうにかしたら?みたいな。

ただ、私の予想では、この流れはとめられないでしょう。なぜかというと、今は宅録をするのに技術や知識が必要ですが、機械の進化だけは恐ろしく速いからです。

それをはっきり自覚したのは、やはりテレビで言っていた、20年後には病気や老化がなくなるかも?というニュースです。

医療の方がそこまで進んでいるのに、録音の世界だけが著しく進化しない、なんてことはないでしょう。

そのうち、ハムノイズもリップノイズも勝手に洗い出し、音質を一切変化させず一括削除!みたいなソフトも出てきちゃうでしょう。

おかしなしゃべり方もこぉんな風に早変わり!みたいな、もはやしゃべり方すらボタン1つで変えられる・・・だからおかしくたっていいんだよ、っていうあなたに優しい機械も登場するはず。

・・・だから、今目指している人、宅録やめないでね。