私は社会人になってからも芝居をしたことがありますが、演劇に足を踏み入れたのは中学の時でした。

中高一貫教育の私立に入ったので、中学、高校の合計6年間、ほぼ同じメンバーで過ごしました。この時のメンバーはいろんなイミで強烈で、その後、私はこの人々に匹敵するような個性の持ち主にはあまりお会いすることがないです。

私達が中学2年生の時、上の学年がメインで「シンデレラ迷宮」という、当時大ヒットしたジュニア系ノベルを舞台化しました。私はオデットという超脇役だったのですが、今考えると、バレエ大好き人間の私にとっては、願ってもない役だったと思います。バレエではオデットなんて、逆立ちしてもできない役ですし。

しかし、初めての学園祭で、あんなことになろうとは。

代役、という言葉が身近に感じられたのは、人生で初めてのことでした。

当然、主役は上の学年の某有名料亭のお嬢様だった(……なんかのマンガみたい。でも、残念ながらホントです)のですが、なんと上演直前に気分が悪くなって、同学年の脇役の人に交替!

……って、言っても商業じゃないし、マヤ(……?)でもないんだから、セリフなんか入ってません!

代役なんて用意されてないです。フツー、こういう場合、他のガッコだとどーすんのかな。中止でしょうか。

「私、やります」・・・って、その先輩が言っちゃったもんだから、相手をするわたくしたちもチョー大変。

セリフが入っていないので、カーテン越しにプロンプターが常にひかえていて、ずーっと「ボソボソ・・・ボソボソ」言ってる。私はそういう場面に客側から出くわしたことがないので、聞いてる客はさぞかしコワかったに違いない。

幸い、私と彼女の場面はけっこう私がずーっと長ゼリフをしゃべりまくっているので、それほど困らなかったのですが、他の役者が大勢出てくる場面は、一体どーなってるのか、コワくて袖からも見たくない。

しかし、その時私と仲の良かった子が後でコーチからものすごいほめられたのです。

彼女は主人公に他のキャラクターを紹介する場面に出ていたのですが、自分からセリフに付け足して「じゃあ、みんなを紹介するわね」と言った。

代役が立ちつくしているのを冷静に見て、助け舟を出す。

キミはホントに中2なのか?と思った瞬間です。それに、優しいですね、とても。

そして、私は大人になっていろいろありましたが、「みんな、何も言わないけど、コレってたぶん代役なんだろうなぁ」みたいなことも、もちろんありました。そのたびに、あの人生初の舞台が思い出されます。

代役をやる人と、役をまっとうできなかった人。

どちらも立場は違いますが、それなりに辛いです。当時は気が付かなかったのですが、自分がナレーションなどで、代役をやるようになってからは、その複雑な気分が理解できるようになりました。また、静かに自分がおろされていることもあるでしょうしね。

それでも私は代役を引き受けるでしょう。

昔、それをクライアント様に言ったら、「いや~、君は営業がうまいね~」と、言われました。

そうか、コレって営業の一種か、ふーん、と妙に感心した覚えがあります。